じゅん矯正歯科クリニックのじゅんじゅんです。
矯正歯科における子供の治療の場合、患者さん本人の希望というよりも
親御さん、特にお母さんの強い希望、願望で治療に至ることが多いです。
歯の矯正治療は長期にわたり、
子供から始めた場合には10年近くかかってしまうこともあります。
また装置の違和感や歯が動く時の痛みが伴うため、
少なからず患者さんに負担を与えてしまう治療です。
装置をつけている間は歯や装置の周りに汚れが残りやすいので、
歯磨きも一層時間をかけて頑張ってもらう必要があります。
そういった意味では患者さんに負担がかかる治療と言えます。
患者さんが大人の場合、自らがコンプレックスに感じたり、
不自由に感じたりしていることを治したいと希望して治療を開始するので、
そういった負担を乗り越えやすいです。
治った後のイメージも描きやすいし、
違和感や痛みを歯並びがよくなるための必要な過程と、
前向きにとらえてモチベーションを維持しやすいのです。
では歯の矯正治療を始めるのは
大人になるまで待った方がいいのかと言われそうですが、
そういうことではありません。
矯正学的に言えば、
子供のうちから治療を始めた方がよいとされることがたくさんあります。
まず子供から治療を始めると成長を利用して、
上下の骨のアンバランスや歯と骨のアンバランスを改善したりすることができます。
また咬合干渉による下顎の偏位を防ぐことができるので、
成人の患者さんに多く見られる下顎の偏位をみることが少ないのも
子供のうちから治療を始めることのメリットと言えるでしょう。
ただ、子供から始めた方がいいというメリットが強調され過ぎると、
親御さんの「自分が歯に苦労したから子供にはそんな思いをさせたくない」
「自分が歯並びの悪いことを気にしているから、
子供にはきれいな歯並びにしてあげたい」という願望とあいまって、
多くの親御さんが
「ぜひ自分の子供には早いうちから矯正治療を受けさせたい」
と思うようになってしまいます。
子供自身が歯並びのことなんて全く気にしていなくても、です。
また「子供のうちに矯正治療を受けさせるのが親の役目!」みたいな、
わが子の健康や幸せを誰よりも願う親心をくすぐるような言葉を聞かされると
「今のうちにできることは全部してあげなくては!」と
一種の強迫観念のようなものにかられる親御さんも多いに違いありません。
私も少なからず子供の患者さんとその親御さんを見てきましたが、
最近の親御さんのわが子の治療に対しての「前のめり」ぶりを見ると、
患者さんに対しても親御さんに対しても、
本当に気の毒な気持ちになってしまいます。
最近では1歳6か月検診や3歳児検診で既に
歯並びや咬み合わせについてのチェック項目があり、
また患者さんの食生活や生活習慣、姿勢や癖などが
歯並びに影響することが分かってきているので、
「子供の歯並びが悪いのはお母さんのせいですよ」と言われたような気がして、
強いストレスを感じているお母さんも多いように感じます。
子育てに一生懸命な真面目なお母さんほど感じるストレスは強く、
それがまた子供へのストレスとなり、
歯並びや咬み合わせに影響するような癖となって出現したりします。
そんな背景を知らない歯科医師が、たまたまそれを見て
「この癖があると将来歯並びが悪くなるから
早くやめさせた方がいいですよ」なんてアドバイスしたりすると、
お母さんはまた責任を感じて、自分を責めたり
子供の癖を無理矢理やめさせようとしたりします。
本当に悪循環です。
私たち矯正歯科医の仕事はもちろん、
患者さんの歯並びや咬み合わせを治して、
歯が長持ちするような環境作りをすることですが、
そのためによかれと思って提供した情報が
患者さんや親御さんを追い詰めたり傷つけたりすることがあっては
本末転倒だと思います。
情報を提供する方法や言葉を慎重に選ぶことはもちろん、
情報を流しっぱなしにするのではなく受け皿になるような、
お母さん方が気軽に相談したり、悩みを話したりできる場や
時間を作ることができたら…と最近強く思っています。
一方的に学問的な正論を振りかざすのではなく、
患者さんや親御さんの状況を考えて
いちばんいい治療を提供できたらベストだと思うのですが、
何を以て「いちばんいい治療」とするのか、の判断は本当に難しく、
矯正歯科医や患者さんの数だけ答えがあるのではないかと思います。
ただ、親御さんが一生懸命に子育てに取り組んでいる姿を
応援する気持ちは常に忘れずにいたいです。